登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。
《静止している観察者》と《おもりに乗っている観察者》
テトラ「……なるほどです! いま、初めてあたし《見かけの力》の意味がわかったように思いますっ!」
僕「それはよかった。もう一つは?」
テトラ「もう一つ?」
僕「二つの疑問のもう一つ」
テトラ「ああ、はい。あのですね。先ほど先輩がおっしゃった《便利》という言葉に引っかかりました」
僕「遠心力という力が働いていると考えると非常に便利」
テトラ「それです! 便利ってどういうことでしょう」
僕「それははっきりしているよ。ニュートンの運動方程式が使えて便利という意味」
テトラ「????」
僕「ど、どうしたの?」
テトラ「だってそれでは……それではまるでニュートンの運動方程式が使えるときと使えないときがあるみたいに聞こえたので」
僕「うん、そうだよ。
テトラ「!!!!」
テトラちゃんは、大きな目をさらに大きく見開いた。
テトラ「ニュートンの運動方程式は、 座標系によって成り立ったり成り立たなかったりするんですか……成り立たない場合があるなんて、 そんなの、想像したこともなかったです!」
僕「だから《加速度運動している座標系》——非慣性系——ではそのままではニュートンの運動方程式は使えない。 だから、回転している座標系で考えているときは、ニュートンの運動方程式は使えない。 たとえば、おもりに乗っている座標系の場合のことだね(第376回参照)」
テトラ「……そうなんですね」
僕「でもすべてがめちゃくちゃになるわけじゃないよ。 ニュートンの運動方程式に出てくる加速度は《観測されている加速度》だけど、 そこに《座標系自体の加速度》 の項を付け加えればいい」
テトラ「加速度を付け加える?」
僕「うん、座標系自体が持つ加速度を加味して、《見かけの力》が働いていると考えるなら、 非慣性系でも、ニュートンの運動方程式が最初から成り立っているかのように式を立てることができる。 そこが《見かけの力》の便利な点」
テトラ「え……よくわかりませんでした」
僕「じゃ、ちゃんと式で書いて説明するね。
通常のニュートンの運動方程式は、
テトラ「はい。おもりに乗っている人の座標系……ですね」
僕「そうそう。そこで《加速度運動している座標系》自体の加速度を
テトラ「ああ……」
僕「だから、この式を展開してやると、
テトラ「力と……見なせる」
僕「そこで、
テトラ「何だか、あれよあれよという間に《見かけの力》が出てきました……」
僕「そして、この式は確かに
テトラちゃんは、僕が書いた式を見返してから、静かにすっと挙手をした。
僕たち二人だけでも、テトラちゃんは質問の手を挙げるのだ。
テトラ「あの……式変形は移項だけでしたから何も難しくありませんし、《見かけの力》と見なす部分もよくわかりました。
でも、一つだけわからないのが、最初のこの式です。
僕「ああ、これは簡単だよ。加速度は速度を
テトラ「は、はい。
僕「いまは位置も速度も加速度もベクトルだけど、話としては同じ。成分ごとに微分するだけのことだから」
テトラ「はい」
僕「いま、位置
テトラ「ああ……はいはい。そうですね。おもりはぐるんぐるん回っていますけど、 おもりの上に貼り付けたグラフ用紙——加速度運動している座標系——で調べると、 おもりは原点でじっとしています。貼り付けてるので!」
僕「そういうこと。もちろんおもり以外のものすべての位置も
テトラ「はい、わかります。おもりに乗ったつもりになってあたりを見たとき、まわりにあるものの位置が
僕「そうそう。さてそこで《静止している座標系》に対して《加速度運動している座標系》自体の位置を
《静止している観測者の座標系(慣性系)》と《加速度運動している観測者の座標系(非慣性系)》
テトラ「はい」
僕「加速度運動している座標系での位置
テトラ「はいはい。矢印をつないで考えるわけですね。わかります」
僕「そうそう。《加速度運動している座標系自体の位置》を加えてやれば、《静止している座標系における位置》がわかる。それが、
テトラ「あ……えっと、これは、
僕「そうだね。
テトラ「ははあ、なるほど。わかってきました」
僕「ニュートン運動方程式は、静止している座標系で見て、
テトラ「わかりました! あたしの理解したことはこうですっ!」
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