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第312回 シーズン32 エピソード2
ふれあう三角関数:タンジェント(後編)

登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。

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僕の部屋

いまは土曜日。

ここはの部屋。

ユーリはいつものように数学のおしゃべりをしている。

ユーリノナに三角関数を教えようとしたという話題に始まって、 $\cos, \sin, \tan$ について話していた。

いまはちょうど、 $$ \tan{\theta}\tan(\KAKUDO{90} - \theta) = 1 $$ の証明が終わったところ(第311回参照)。

ユーリ「ほらね! ユーリは三角関数カンペキでしょ? お兄ちゃんの出す問題なんか、全部わかっちゃうよ!」

「そりゃすごいな。 でも確かにユーリは、 $\tan$ の定義もちゃんとわかっているし、 $\tan\KAKUDO{30}, \tan\KAKUDO{45}, \tan{\KAKUDO{60}}$ の値も、きちんと考えているよね」

ユーリ「ふふん。単位円を描けばすぐわかるもん。三角関数カンペキさ!」

「じゃあ、ちょっと違うクイズを出してみようか」

ユーリ「どんとこい」

関数 $\cos\theta$ の定義域と値域

「ユーリは $\cos,\sin,\tan$ を三角関数だって言ってたよね。 関数というからには定義域は何だろう」

ユーリ「わかんない」

「がく」

ユーリ「あっ、ちがうちがう。答えがわかんないんじゃなくて、お兄ちゃんが何を言ってるかがわかんないの!」

「関数っていうのは、数を何か与えると、数が得られるものだよね。まあ、数じゃないこともあるけど」

ユーリ「えーと?」

「うん、じゃあ、たとえば、関数 $\cos$ で具体的に話そうか。 角度 $\theta$ を $\cos$ という関数に与えると、数 $\theta$ に対応して単位円上の点の $x$ 座標という数が得られるよね。 いま角度は《度》で考えているから、 $\cos$ に $60$ を与えると、 $0.5$ が得られるという具合に」

関数 $\cos$ に $60$ を与えると $0.5$ が得られる

※角度は《度》で考えています。

ユーリ「それって、 $\cos\theta$ の定義の話、してる?」

「そうだよ」

ユーリ「$\cos$ に $\KAKUDO{60}$ を与えると $\frac12$ だから $0.5$ が得られるって?」

関数 $\cos$ に $\theta$ を与えると $x$ 座標の値が得られる

「そうそう、そういう話。 そのとき、いま考えている関数 $\cos\theta$ では、 $\theta$ として与えることができるのは実数だよね」

ユーリ「そだね。数だから」

「数といってもいろいろある。たとえば $\theta$ に虚数の $i$ を与えることは、いまは考えていない。考えているのは実数だけ」

ユーリ「ほほー。虚数の角度?」

「$\theta$ を虚数にするという話は、それはそれでおもしろい話につながるけど、いまは実数だけを考えている」

ユーリ「そんで? お兄ちゃんは何が言いたいの?」

「関数を考えるときには《その関数に与えることができるのはどんな数なのか》をきちんと決めておく必要があるという話だよ。 $\cos\theta$ の $\theta$ に対して $\KAKUDO{0}$ を与えてもいいし、 $\KAKUDO{30}$ を与えてもいいし、もっと大きな数やもっと小さな数を与えてもいい。 $\KAKUDO{100}$ とか $\KAKUDO{360}$ とかね」

ユーリ「$\KAKUDO{3000}$ とか」

「そうだね。それからマイナスでもいい。 $-\KAKUDO{60}$ とかね」

ユーリ「いーよ」

「つまり、僕たちはいま $\cos\theta$ という関数の定義域を、実数全体の集合だと考えているわけだ」

ユーリ「てーぎいき」

「そう。 $\cos$ という関数に与えることができる数全体の集合を、関数 $\cos$ の定義域という。 いま僕たちは、関数 $\cos\theta$ の定義域を実数全体の集合だとして考えていることになる」

ユーリ「ねえ……お兄ちゃん。それって簡単な話をややこしく言ってる?」

「そうじゃないよ。簡単な話を正確に言ってるんだ」

ユーリ「はいはい」

「ユーリは《実数全体の集合》といわれて、ピンと来てるよね?」

ユーリ「だいじょーぶ。数直線でしょ?」

「うん、それでいいよ。 数直線は実数全体の集合だと考えることができるし、 一つ一つの実数は数直線上の点として考えることができる。 実数全体の集合のことは $\REAL$ と書くこともある」

ユーリ「はいはい。そんでそんで?」

「それが $\cos\theta$ の定義域。 それに対して、 $\cos\theta$ の値域というものもある」

ユーリ「ちいき」

「そう。関数 $\cos\theta$ がとる値全体の集合のことを $\cos\theta$ の値域という。 $\cos\theta$ の値域って、具体的に何だかわかる?」

ユーリ「わかんない」

「がく。『そのスピードは考えていない証拠』ってミルカさんに言われたことなかったっけ?」

ユーリ「ぐぬぬ。ミルカさまを出してくるなー!」

「$\cos\theta$ の値域って、具体的に何だかわかる?」

ユーリ「えーと? ……結局 $\cos\theta$ って、点の $x$ 座標だよね?」

「そうだね。 $\cos\theta$ の定義から、 単位円の円周上にある点の $x$ 座標だといえる」

ユーリ「だったらカンタン! ぐるっと回るから、 $-1$ から $1$ までの範囲だ。  こーゆーこと!」

「そうだね。ユーリはちゃんとわかってる。 関数 $\cos\theta$ の値域は《$-1$ 以上で $1$ 以下の実数全体の集合》になる。 関数 $\cos$ の値域は、数式を使ってこんなふうに書くこともできる」

$$ \SET{x \SETM -1 \LEQ x \LEQ 1 } $$

ユーリ「あ、そーゆーの見たことある。お兄ちゃん、よく書くよね」

「そうだね。 $x \in \REAL$ と書いて、実数であることをはっきりと書いてもいい」

$$ \SET{x \in \REAL \SETM -1 \LEQ x \LEQ 1 } $$

ユーリ「いろんな書き方あるんだね」

「関数を考えるときには、もう一つ、終域(しゅういき)という集合を考えることがあるけれど、それはまた今度話をしよう」

テトラ「定義域・終域・値域については連載第203回 関数を手がかりに:対応の対応(前編)をどうぞ!」

ユーリ「いま一瞬、テトラさんが見えたよ」

「それはさておき、定義域と値域のクイズを出そう。いいよね」

ユーリ「いいよん。理解したから大丈夫!」

関数 $\sin\theta$ の定義域と値域

「僕たちが考えている関数 $\cos\theta$ の定義域は《実数全体の集合 $\REAL$》で、 値域は《$-1$ 以上 $1$ 以下の実数全体の集合》だったよね」

ユーリ「それ、さっきやった」

「それじゃ今度は、関数 $\sin\theta$ の定義域と値域は?」

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(2021年1月15日)

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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