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第126回 シーズン13 エピソード6
まちがった正しさ(後編)

書籍『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』として書籍化されています。

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだけれど飽きっぽい。

$ \newcommand{\REMTEXT}[1]{\textbf{#1}} \newcommand{\ABS}[1]{|#1|} \newcommand{\GEQ}{\geqq} \newcommand{\LEQ}{\leqq} $

僕の家

高校生のと、中学生のユーリはグラフについて話し合っている。 グラフを少し変えるだけで印象ががらっと違ってしまうのを、 具体的なデータで比べているところ。 社長と専務の陰謀うずまく会社を例にして……

「……だから現在の社長は、社員数が増えていることをアピールしたい」

ユーリ「でも、次期社長の座をねらう専務は逆」

「うん、そういう設定だと、同じデータなのに違うグラフが生まれてくる。 グラフを使って何を主張したいかが変わるからだね」

ユーリ「変な感じ。 同じデータを使っているのにね」

「これがデータとグラフ。これだと『社員数は増えてますね』という印象を与える」

社員数の折れ線グラフ

$$ \begin{array}{c|cccccccc} \REMTEXT{年数} & 0 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\ \hline \REMTEXT{人} & 100 & 117 & 126 & 133 & 135 & 136 \\ \end{array} $$

ユーリ「少しずつだけどねー。でも、まー、増えてる。 そして、縦軸の目盛りをいじれば社長のグラフが作れるんでしょ? 『すごく増えてるぞ』グラフ」

社長「すごく増えてるぞ」

「縦軸に限らないよ。横軸の目盛りをいじっても印象はずいぶん変わる。 たとえば、こんなグラフを作れば『ほとんど変化はありませんね』というものになるんじゃないかな」

ユーリ「専務のグラフだ!」

専務「ほとんど変化はありませんね」

「左側をちょっとカットして、 $3$ 年目、 $4$ 年目、 $5$ 年目だけを描いたわけだね」

ユーリ「最後の三年間だけを考えたら、確かに変化は小さいもんなー。 そっか、グラフをどう描くかだけじゃなくて、データのどこを選んでグラフを描くかも大事なんだね、お兄ちゃん」

株価のグラフ

「そうだね。グラフの左側をカットすると、データのうち最近の数値しか見ないことになる。 逆に、グラフの左側をさらに延長すると、ずっと過去の数値も見ることになる。 あ、それで有名なのが株価のグラフだよ」

ユーリ「カブカ?」

「ユーリは『株』って知らない? 株の価格が株価だよ」

ユーリ「あんま知らない」

「会社は資金を集めるために『株』というものを売ることがある。 株の値段が株価だよ。 人気のある会社の株はみんなが買いたがるから株価は高くなる。 人気がない会社の株の場合は、逆に株価は低くなる。株価はいつも変動している」

ユーリ「んー、よくわかんない。みんなが買いたがるって、どうやって調べるの?」

「ああ、いまは細かい話はどうでもよくて、 言いたいのは、株というものがあって、 その価格はしょっちゅう変動しているということだけだよ」

ユーリ「ふんふん?」

「一般の人は、証券会社を経由して会社の株を買ったり売ったりする。 たとえばユーリが、ある会社の株を $100$ 円のときに買って、 $150$ 円のときにその株を売ったとする。 そうすると、差額 $150 - 100 = 50$ 円だけ、ユーリはもうけたことになる」

ユーリ「……たった $50$ 円? それ、何がおもしろいの?」

「たくさん売り買いすればもっともうかるよ。 $1$ 株が $100$ 円の株を $1$ 万株買っておき、 $150$ 円になったときにぜんぶ売れば、 $50$ 万円もうかる」

ユーリ「あ、そっか」

「株を売り買いする人は、だから株価の変化にすごく関心がある。 たとえば、こんなグラフ1を見て『この会社は、株価が継続的に上がっている』と判断する人がいる」

グラフ1「株価が継続的に上がっている」?

ユーリ「判断する……って、見たとおり、確かに上がってるよね」

「ほんとうかな?」

実は、下がっていた

ユーリ「また先生トークですか。 グラフの目盛りはごまかしてないし、ときどきは下がっているけど、 全体としては上がっているじゃん?」

「じゃ、同じ会社の株価のグラフをもう一つ見てみようか。グラフ2を見たらどう思う?」

グラフ2「株価は下がっている途中」?

ユーリ「え? これ、グラフ1とはぜんぜん違うグラフじゃん」

「グラフを読むときには、軸と目盛りに注意しなくちゃ」

ユーリ「そーだった……ははーん、これ日付の範囲がぜんぜん違うね。 グラフ1の方は $2014$ 年 $12$ 月の一ヶ月分だけじゃん」

「そうだね。そして、グラフ2の方は $2014$ 年の $7$ 月から $12$ 月まで、後半のようすを描いた」

グラフ1とグラフ2では、日付の範囲が違う

グラフ1

グラフ2

ユーリ「あったりまえのことだけど、範囲を変えるだけで、ぜんぜん違う変化になるね」

「そうだね。グラフ1で見えている全体は、グラフ2ではほんの一部になるから」

グラフ1を見ると継続的に上がっていると思ったけれど……

……グラフ2を見てみたらそうとも言えなかった

ユーリ「てことはさ? 『7月8月9月は安定してて、 急に下がって、 $12$ 月にちょっと上がった』というのがほんとだったんだ。株価」

「ほんとうかな?」

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(2015年8月7日)

書籍『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』

この記事は『数学ガールの秘密ノート/やさしい統計』として書籍化されています。

書籍化にあたっては、加筆修正をたくさん行い、 練習問題や研究問題も追加しました。

どの巻からでも読み始められますので、 ぜひどうぞ!

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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